講談社文芸文庫

24人の読み巧者が選ぶ 講談社文芸文庫 私の一冊

阿川佐和子

やわらかい話(2) 吉行淳之介対談集 丸谷才一編

やわらかい話(2) 吉行淳之介対談集 丸谷才一編

著:吉行 淳之介,

編:丸谷 才一

発行年月日:2008/03/11

きわどい話から艶っぽい事件まで、対談の名手吉行淳之介が、金子光晴、東郷青児、大宅壮一、藤原義江、開高健ら16人の人生の達人たちと闊達に繰り広げた艶笑対話録。

やわらかい話2

著:吉行 淳之介,

編:丸谷 才一

 

同席してみたかった

 

 吉行淳之介氏が対談の名手であることは、つとに知られた話である。しかし、僭越ながら私の存じ上げている吉行さん(かつて父、阿川弘之と頻繁に花札に興じていた)は、いつも穏やかで色っぽいが、決して社交家には見えなかった。気に入りの場所(銀座とか雀荘とかその他とか)にはお出かけになっても、積極的に人の話を聞くのが好きそうにはお見受けしなかった。が、事実は違うらしい。
 本書は吉行さんが長年にわたりあちこちでホストをつとめた対談の傑作選第二弾である(本書の前に『やわらかい話1』があるが、ただいま品切れ中)。編者は、これまた一見ぶっきらぼうながら、人の話をふんわり聞き出すのがお得意の丸谷才一氏。各章の冒頭でゲストの似顔絵を描いておられるのは和田誠氏だ。
 以前、私は和田さんから伺ったことがある。
「僕は一時期、吉行さんの対談現場にずいぶん同席させてもらったの。ゲストの似顔絵を描く立場だったんで別に同席する必要はなかったんだけど。でも、吉行さんとゲストのやりとりが面白くてねえ」
 その話を聞いて、ああ、私も同席してみたかったものだと心から羨ましく思った。
 本書の対談テーマは「オトコとオンナ」を軸にした文学論であり人生論であり哲学談義であり生物論であり、はたまた大人の呟きである。こういう「やわらかい話」を聞きながら人は大人になるべきだと、読み返すだにつくづく思う。
 本書巻末に編者の丸谷才一氏と渡辺淳一氏の対談が載っている。これがまた、締めとして実にいい味わいを醸し出している。

渡辺 しかし吉行さんはほんとに、どの写真見てもいい男ですね。
丸谷 いい男だし、人柄が立派だったね。いい男で人柄が立派だと、小説はへたなもんだけど、小説もうまかったよ。

 対談のホストはやはり、人を受け入れる大きな器と、人に受け入れられる人品を備えていなければなるまい。本書を読んで改めて自戒する。ダメだ、私はまだ修業が足りない。

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阿川佐和子

作家。東京生まれ。檀ふみとの共著『ああ言えばこう食う』で講談社エッセイ賞、『ウメ子』で坪田譲治賞をそれぞれ受賞。二〇一四年菊池寛賞受賞。

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『やわらかい話2 吉行淳之介対談集』

きわどい話から艶っぽい事件まで、対談の名手吉行淳之介が、金子光晴、東郷青児、大宅壮一、藤原義江、開高健ら16人の人生の達人たちと闊達に繰り広げた艶笑対話録。

吉行淳之介/丸谷才一 編
●定価:本体1400円(税別)

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